名古屋簡易裁判所 昭和28年(ハ)4号・昭28年(ハ)6号・昭28年(ハ)3号 判決
原告 古居信太郎 外二名
被告 小森証券株式会社
一、主 文
別紙第一目録<省略>記載の株券は原告古居信太郎の、別紙第二目録<省略>記載の株券は原告古居勝睦の、別紙第三目録<省略>記載の株券は原告古居市郎のそれぞれ所有であることを確認する。
被告は、別紙第一目録記載の株券を原告古居信太郎に、別紙第二目録記載の株券を原告古居勝睦に、別紙第三目録記載の株券を原告古居市郎にそれぞれ引渡せ。
前項中別紙第一目録記載の株券に対する強制執行不能のときは、被告は原告古居信太郎に対し金二万八千二百円を、別紙第二目録記載の株券に対する強制執行不能のときは被告は原告古居勝睦に対し、金八千七百円をそれぞれ支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告三名代理人は、主文第一、二、三項同旨の判決並びに主文第二、三項につき、仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求原因として原告古居信太郎は別紙第一目録記載の株券を、原告古居勝睦は別紙第二目録記載の株券を、原告古居市郎は別紙第三目録記載の株券をそれぞれ所有し、且つ、それぞれその株式名義人であるが、原告信太郎は、原告勝睦、同市郎の委託により自己所有の分と併せて本件株券全部を管理し、昭和二十四年五月頃本件株券を原告信太郎所有の手提金庫に入れ施錠して訴外古居豊吉に保管を托した。然るに訴外古居豊吉は原告に無断で本件株券を右金庫内より取出し、之を訴外仲三証券株式会社に交付し、その後被告は右仲三証券株式会社より本件株券を売買契約に基き、白紙委任状付で引渡を受けたものであるが(被告と右仲三証券株式会社の関係については原告代理人の弁論の全趣旨よりこのように主張するものと認める)右白紙委任状は偽造であり、被告は本件株券を占有する権利を有しない。よつて原告等の本件株券に対するそれぞれの所有権の確認と引渡を求め、尚本件株券中別紙第一第二目録記載の分に対する強制執行が不能の時は、それぞれその代償として主文第三項掲記の各金額の支払を求めるため本訴に及んだ旨陳述し、
被告の抗弁に対し、別紙第三目録記載の株券に甲第二号証の二(委任状)が添付され、右甲第二号証の二の記載は、委任者の氏名と株券の名称の部分をのぞき、他の本件株券に添附された各委任状の記載と同一であることは認め、被告が本件株券を占有するに際し訴外仲三証券株式会社に譲渡の権限ありと信じていたことは争わないが、その余の抗弁事実は否認する。右各白紙委任状は譲渡証書ではないし、又被告が本件株券を入手したのは改正商法施行前であるから善意取得することもできない」と陳述した。<立証省略>
被告代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として「原告等がそれぞれその主張する株券の株式名義人であり後記の如く被告が善意取得するまではその所有者であつた事実は認めるが、その余の原告の主張事実は否認する。本件記名株券は被告会社が訴外仲三証券株式会社から白紙委任状付で売買契約に基き引渡を受け、その白紙委任状は原告等がその意思に基いて適法に作成した上株券と共に右訴外仲三証券株式会社に交付したものであるから被告は本件株券につき所有権を取得したものである」とのべ、
抗弁としてかりに前記白紙委任状が原告等の意思に基かない偽造のものであるにしても、本件株券については被告は次のような理由で善意取得をしたものである。
即ち、昭和二六年法律第二一〇号商法の一部を改正する法律施行法(以下新商法施行法と称す)第十一条但書によれば昭和二十五年法律第一六七号商法の一部を改正する法律(以下同法施行前の商法を旧商法同じく施行後の商法を新商法と称す)施行前になされた記名株式の移転について新商法第二百五条第三項を適用すると規定して居り新商法施行前には、譲渡証書なるものには存在しなかつた事実に鑑みる時は、右規定は従来商慣習法上認められていた記名株券添付の白紙委任状につき、それの名称が委任状という名称であつてもそれの実態か譲渡を証する書面であり単に名義書換の代理権の授与の証書に止らざる事実に着目しこれに譲渡証書と同一の取扱をなすべき旨を定めてたものである。
而して新法第二〇五条第三項は譲渡証書附株券に対し同条第二項に規定する裏書と同様の資格授与的効力を与えたものであるから新法施行法第十一条但書は、新法施行前の白紙委任状附記名株券の譲渡につき同様の資格授与的効力を与えたものである。而して旧商法時代においては旧商法第二〇五条第二項には手形法第十六条第一項の準用が明示されてはいないに拘らず解釈上は当然準用されるものとして、記名株券の裏書につき資格授与的効力が認められ、裏書の連続が旧商法第二二九条第一項による善意取得の要件とされて居たに反し白紙委任状附記名株券の譲渡については白紙委任状か株主の意思に基いて交付された場合でなければ、これに資格授与的効力も与えられず又善意取得の要件ともならなかつた。
然しながらこれは白紙委任状付記名株券譲渡が商慣習法であつたがためであつて前述の如く新商法施行法第十一条但書は旧商法時代における白紙委任状付記名株券の譲渡につき資格援与的効力を与え裏書譲渡の場合と同一の取扱をなす旨法定するに至つたのであるから善意取得の要件についても同一の取扱をなすものであつて旧商法時代の裏書譲渡に旧商法第二百二十九条第一項の適用があると同様旧商法時代の白紙委任状付記名株券の譲渡につき右旧商法条項の適用があるものである。
本件における被告の株券取得はいずれも旧商法時代の取得であるが、その添付委任状は名は委任状であるが名義書換代理権の授与の外に株式譲渡の意思表示も記載されてあり、株式名義人の署名捺印あるものであるから譲渡証書として何等欠けるところがないこのことは株式会社豊田自動織機製作所株式一百株(別紙第三目録記載の株券甲第二号証の一)添付の委任状(同号証の二)の記載により明であり尚その余の本件株券に添付された委任状も株券の名称及び委任者の氏名の点をのぞき右と全く同一の記載である。よつて本件株券添付の各委任状はたとえ偽造であるにしても前述の如く新商法第二〇五条第三項により資格授与の効力があり、旧商法第二〇五条により裏書連続がある場合と同様、旧商法第二二九条により善意取得が認めらるべき場合というべく、仮に原告等主張の如く本件株券が原告等の意思に基かず、流通に置かれ又は委任状が偽造のものであるとしても被告はこの点について全く善意であり且過失なかりしものであるから、本件株券は返還すべき限りでないと陳述した。<立証省略>
三、理 由
原告信太郎が本件株券中別紙第一目録記載の分の、原告勝睦が同じく第二目録記載の分の、原告市郎が同じく第三目録記載の分のいずれも株式名義人であり被告が占有を取得するまでその所有者であつたこと、本件株券が白紙委任状付で訴外仲三証券株式会社より被告に売買契約に基き引渡されたこと、右引渡は改正商法施行前であつたこと右添付された白紙委任状はその委任者の氏名と株券の名称の点をのぞきすべて甲第二号証の二(別紙第三目録記載の株券に添付された白紙委任状)と同一の記載であることは当事者間に争がない。
成立に争のない甲第一号証の一乃至十三、甲第二号証の一証人古居豊吉、原告本人古居信太郎の各供述、及び以上の各証拠により偽造であると認められる甲第二号証の二を綜合すれば、本件各株式は原告等三名がそれぞれ所有し原告勝睦、同市郎の委託により原告信太郎が自己所有の分と併せて管理していたが、昭和二十四年五月頃、本件株券全部を原告信太郎所有の手提金庫に入れ施錠をした上、その兄である訴外古居豊吉に財産保全の目的で保管方を依託しておいたところ、古居豊吉は原告等に無断で合鍵を用いて右金庫を開き前記株券を取出し、白紙委任状数通を偽造して(甲第二号証の二はその中の一通)本件株式に添付して訴外仲三証券株式会社に交付し、仲三証券株式会社は前示の如く売買契約に基き更にこれを被告に引渡したものであること、右白紙委任状に押捺してある委任者の印影は原告等の印鑑によるものではなく古居豊吉の印鑑の印影であり、その株式各義人の記名も権限なくしてなされたものであるけれどもその記載によれば(甲第二号証の二参照)譲渡の意思が明にされているので、新商法第二百五条第三項にいわゆる譲渡証書というべきであることが認められる。
そこで被告の善意取得の抗弁につき判断する。
新商法施行法第十一条但書商法第二百五条第三項は、新商法施行前の白紙委任状附記名株券の譲渡に関し、その白紙委任状に譲渡の意思が明にされている限り新商法第二百五条の譲渡証書としての効力を認め、右株券につき新商法におけると同様の資格授与的効力を認めていることは、所論の通りである。
然しながら新法施行法の右の規定はその右譲渡が新法商法施行前になされたか後になされたかを会社をして判断せしめることが不便であるため、新商法施行後においては会社が譲渡証書としての要件を形式的に審査すれば、譲渡の時期が旧商法時代であることにつき悪意又は重大なる過失のない限り譲渡制限、裏書禁止、印鑑違の場合でも所持人を株主として取扱つたことにつき免責を与えるという形式的な資格の推定力を定めたものであつて記名株券の権利の得喪の如き実質的内容に関するものではないのである。
従つて、新法施行前になされた白紙委任状附記名株券の善意取得の如き権利の得喪については白紙委任状が譲渡証書であるか否とは関係なく次にのべるような理由で旧商法によつてその効力を判断すべきものである。
新商法施行法第二条第一項但書が新商法の遡及効を制限して「但し旧法によつて生じた終つた効果を妨げない」と規定しているのは、記名株式の権利得喪の如く、その時限りの一時的現象をもつて完了する事項に関しては、単にその権利が得喪するという積極的効果につき旧法を適用するのみならず、そのような得喪を否定するという消極的効果の点についても又旧法を適用する趣旨であると解すべきであつて、同法第十一条本文が記名株式の移転につき旧法を適用することを又同法第十四条本文が裏書による記名株券の善意取得につき旧法第二百二十九条第二項を適用することをそれぞれ明定して、前者は譲渡禁止(旧商法二百四条第一項但書)裏書禁止(旧商法第二百五条第一項但書)に違反した裏書につき移転の効果を否定する趣旨を、後者が会社につき調査すれば裏書の真偽判別可能な場合に善意取得の効果を否定する趣旨を明にしているのは、いずれも右第二条第一項但書に規定されてない事項を別途に定めたものではなくその当然含有する意味を明確ならしめて疑問を避けたにすぎないものと解すべきである。然りとするならば、白紙委任状附記名株券の善意取得の効果が否定されるかどうかが問題となる本件の場合については前記第十一条本文又は第十四条の如き明文がなくとも(第十一条本文は善意取得についての規定ではなく又第十四条本文は裏書による善意取得のみに関する)当然旧商法が適用されるのであつて之は右第二条第一項但書の規定に基くのである。
而して旧商法時代においては右に関する効力は専ら商慣習法が適用されていたのであり判例によれば「善意無過失の第三者が白紙委任状附記名株券を取得し得る商慣習法が適用あるがためには該委任状が真正に成立したものなることを要する」(大審院昭和十九年二月二十九日二十三巻九〇頁)とされ、旧商法第二百二十九条の適用が否定されていたところであり、右判例は現在においても又正当というべきである。
而して本件株券に添附された白紙委任状が原告等の意思に基かない偽造のものであることは既に認定したところであるから被告は本件株式を取得することはできないものというべく、被告の抗弁は失当なること明白である。その他被告は本件株券の所有権を取得したこと又は適法な占有権あることを主張も立証もしないので被告の本件株券が占有は不法であるといわねばならない。
よつてこれの所有権確認並びに引渡及び本件株券中別紙第一、第二目録記載の分に対する強制執行が不能の時はそれぞれその代償として主文第三項掲記の各金額(成立に争のない甲第三号証により口頭弁論終結当時における右各株券の価額が右各金額の通りであることが認められるから、これを以て代償金額と認定する)の支払を求める本訴請求は正当として認容し、尚仮執行の宣言についてはこれを附しないのが相当であるので却下することとし、民事訴訟法第八十九条により主文の通り判決する。
(裁判官 植村秀三)